生命保険を検討する場合は、まず「何のために加入するのか?」ということを明確にしなくてはなりません。では、一般的に生命保険は何のために加入するのでしょうか?それは「もしもの時に、経済的に困らないため」です(ここでは、節税や貯蓄として生命保険を利用することは考慮いたしません)。

 

 

 では、もしもの時に誰が経済的に困ってしまうのでしょうか?それは、残された遺族である配偶者や子供になるかと思います。そこで、米澤選手について考えてみますが、米澤選手はQ&Aにもあるように、未婚で子供もいらっしゃいません。つまり、米澤選手は扶養している家族がいないということです。では、米澤選手に生命保険(死亡保障)は必要なのでしょうか?

 

 

 必要ないと考えられます(ただし、「現時点においては」ということにしておきます)。では、米澤選手にとって必要な保険とは一体何でしょうか?米澤選手が、優先的に考慮しなくていけない保険は、「生命保険」ではなく、怪我や病気での医療費に備える「医療保険」や、働けなくなり収入が途絶えてしまった場合に備える「所得保障保険」だと考えられます。しかし、保険を考えるといっても、米澤選手は会社勤務をされているので、国の社会保険(労災保険・健康保険)の被保険者になっています。したがって、まずはこの社会保険(労災保険・健康保険)の給付内容について確認しなくてはいけません。

 

 

プロボクサー・米澤重隆選手 練習風景2

 まず労災保険ですが、労災保険は業務上・通勤上での怪我や病気等について給付が行われます。働けなくなった場合に給付される「休業補償給付」は、賃金を受けることができないときに支給されます。その給付額は、特別支給金である「休業特別支給金」と合わせて「休業給付基礎日額×80%」に相当する額が支給されます。そして、業務外での怪我や病気で働けなくなった場合は、健康保険から「傷病手当金」が支給されます。「傷病手当金」とは、病気やけがのために働くことができず、会社を休んだ日が連続して3日間あったうえで、4日目以降、休んだ日に対して最長で1年6ヵ月間支給されます。 支給される金額は、1日につき標準報酬日額の3分の2です。

 

 

【例】月収30万(標準報酬日額1万、休養給付基礎日額1万円)で連続30日休んだ場合

●業務上の理由の場合(労災保険)・¥10,000 × 80%    × 27日 = ¥216,000
●業務外の理由の場合(健康保険)・¥10,000 × 3分の2  × 27日 = ¥180,009

※労災保険及び健康保険においては、休業開始から3日目までは支給されません

 

 

 

 つまり、月収30万円とした場合、民間保険会社の保険に加入しなくても、社会保険から月収の約6割から8割程度の所得補償が既にあるのです。さらに、上記の社会保険からの給付はいずれも非課税となります。いかかでしょうか?働けなくなって、会社から給与が支払われなくなった場合、民間会社の保険に加入しなくても、これだけの保障があるのです。したがって、まずは月収から、この社会保険からの給付だけになってしまった場合、生活できるかどうかシミュレーションしていただきたいと思います。

 

保険のピラミッド

 

 保険を考える場合、上記のピラミッド図が基本的な考え方になります。縦軸が必要保障額とした場合、まず、国の社会保険として最低限の保障があり、その上に勤務先独自の福利厚生や預貯金があります。そして、それでも不足する金額を保険で準備します。しかし、残念ながら、この「公的保障・社会保険」及び「企業保障・預貯金」を考慮せず必要保障額のすべてを生命保険で準備している方が多々いらっしゃいます。つまり、その方々はムダな保険料を支払っているということです。ちなみに、米澤選手の場合は、2階部分に前回のコラムで触れた「プロボクシング協会の健康管理基金」の保障が加味されるということです。米澤選手の保険を考える場合、「社会保険の被保険者である」ということがとても大切なポイントとなります。

 

 

 今回のポイントは、「プロ格闘家でも、国の社会保険の被保険者である」ということです。つまり、国の社会保険には職業による加入制限は無い、ということです。しかし、社会保険の被保険者であっても、自営業者であれば、原則、上記の労災保険・健康保険の被保険者にはなれませんので休業補償や傷病手当金もありません。したがって、自助努力で準備しなくてはいけない補償額が多くなります。アルバイトであれば、労災保険の被保険者にはなりますが、健康保険の被保険者ではない場合があります。この場合には、業務外の怪我や病気で働けなくなって場合、社会保険からの所得補償はありません。このように、「社会保険の被保険者である」といっても、実は働き方によって様々ですので注意が必要です。

 

 

 次回につづく。

 

 

 

2012年03月02日(金)
FP社会保険労務士事務所 柔コンサルティング
代表 平野 厚雄