会員さんが道場内でケガをしてしまった場合のリスクについて、もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。今回は治療費という問題ではなく、ケガにより後遺障がいが残ってしまった場合です。後遺障がいが残ってしまった場合において、何が問題になるかというと、その会員さんの「逸失利益」です。

 

 

 「逸失利益(いっしつりえき)」とは、本来得られるべきであるにも拘らず、不法行為や債務不履行などで得られなかった利益のことを指します(「得べかりし利益(うべかりしりえき)」とも言われます)。重い後遺障がいが残ると働けなくなってしまい、その結果、今まで通りの健康で働いていたときと同じ給料を稼ぐことができなくなってしまうことがあります。その場合、そのケガをする前の健康体であったら稼げたであろう給料の総額と、障害が残った状態で稼げるであろう給料の総額には差が発生します。この差を「逸失利益」というのです。

 

 

 柔術道場として想定できることは、例えば、まだ格闘技を始めたばかりの初心者である会員さん同士でスパーリングをさせてケガをしてしまった場合です。初心者さんは、まだ力の使い方が分かっていらっしゃらないので、無理な動き方や力の使い方をしたり、また受け身が上手ではなかったりということで、思わぬケガをしてしまう場合があります。

 

 そこで想定されることは、「当然、道場主だったら初心者同士は危ないということは分かっていたはずなのに、それを止めさせなかった道場主に責任がある!だからケガをしたのは道場主の安全管理義務違反だ!」ということで、責任追及されてしまうことです。そして、そんなことが起きてしまうことを回避するために、各道場はおそらく、会員さんの入会にあたり以下のような誓約書に同意をえているのではないでしょか?

 

 

「私は道場内の事故により負傷・死亡する危険がある事と、怪我による後遺症を負う可能性があることを了承した上で入会を申し込みます。またそれらの事故・負傷・死亡・後遺症に対しては、誰にも責任の所在を問うものではなく、道場および関係者に対して一切の保障を請求しないことを誓約します。」

 

 

ブラジリアン柔術家_澤田真琴選手3

 しかし、弁護士さんに相談してみたところ、入会にあたりこのような誓約書をもらっていても、実際に事故が起きてしまった場合、責任追及を逃れることはできない場合もある、とうことです。もちろん抑止力にはなりますが、やはり訴えられたりトラブルになってしまうことは想定されるということです。

 

 

 逸失利益の算出ついては、交通事故の際に使われる以下の式があります。そして、この式は交通事故以外の事故にも使用されることがありますので、この式を参考に逸失利益を算出してみたいと思います。

 

 

【年収×ライプニッツ係数×労働能力喪失率(就労可能年数)=逸失利益】

 

 例えば、30歳・年収500万円の男性が、道場内の事故で「後遺症5級2号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)」の認定を受けた場合の逸失利益は以下の通りになります。

 

5,000,000円 × 79/100(ライプニッツ係数) × 16.711(就労可能年数37年) = 66,008,450円

 

 

 つまり、約6,600万円が逸失利益として、道場主に損害賠償請求される恐れがあるということです(交通事故で本人の過失がある場合はその分減額されます)。いかかでしょうか?一応、今回のケースは最悪の事態を想定しておりまが、道場経営のリスクの1つにこの「訴訟リスク」があるということは、きちんと認識しておくことが必要だと考えます。

 

 

 次回は、この訴訟リスクの対処について検討してみたいと思います。

 

 

 

 

2012年08月06日(月)
FP社会保険労務士事務所 柔コンサルティング
代表 平野 厚雄